バガヴァッド・ギーターはマハーバーラタの物語の一部であり、マハーバーラタは親族間の戦いの物語です。
バガヴァッド・ギーターの主人公アルジュナはパーンダヴァ軍の王子であり、インドラ神を父に持ち、最も武芸に秀でていました。
戦争がまさに始まろうとした瞬間、敵方にかつての自分の師や親族の姿を見たアルジュナは、この上ない悲哀を感じて沈み込みます。
クリシュナ(神の化身)はそんなアルジュナに言葉をかけ励まします。
「アルジュナよ。めめしさに陥ってはならぬ。それはあなたにはふさわしくない。卑小なる心の弱さを捨てて立ち上がれ。」(3)
それに対しアルジュナは次のように問いかけます。
「クリシュナよ。戦いにおいて、尊敬に値する師にどうして矢で立ち向かえよう。(4)
我々が勝つべきか、彼らが我々に勝つべきか、どちらがよいのかわからない。(6)
私にきっぱりと告げてくれ。そして私を教え導いてくれ(7)」
バガヴァット(神)は告げました。
「あなたは嘆くべきではない人について嘆く。
賢者は死者についても生者についても嘆かぬものだ。(11)
私は決して存在しなかったことはない。
あなたもここにいる王たちも。(12)
主体はこの身体において、少年期、青年期、老年期を経る。
そしてまた、他の身体を経る。
賢者はここにおいて迷うことはない。(13)
この全世界をあまねく満たすものを不滅であると知れ。この不滅のものを滅ぼすことは誰もできない。(17)
常住で滅びることなく、測りがたい主体に属する身体は、有限であると言われる。
それ故、戦え。アルジュナ。(18)
もしあなたが、この義務に基づく戦いを行わなければ、自己の義務と名誉とを捨て、罪悪を得るだろう。(33)
あなたは殺されれば天界を得、勝利すれば地上を享受するであろう。
それ故、アルジュナ、立ち上がれ。戦う決意をして。(37)
苦楽、得失、勝敗を平等のものと見て、戦いに専心せよ。
そうすれば罪悪を得ることはない。(38)
人は行為を企てずして、行為の超越に達することはない。
また単なる放擲(ほうてき)のみによって、成就に達することはない。(4)
実に一瞬でも行為をしないでいる人は誰もいない。(5)
あなたは定められた行為をなせ。
行為は無為よりも優れているから。(8)
執着することなく、常に、なすべき行為を遂行せよ。実に、執着なしに行為を行えば、人は最高の存在に達する。(19)
愚者が行為に執着して行為するように、賢者は執着することなく、世界の維持のみを求めて行為すべきである。(25)」
このように数々のヴェーダの智慧が、クリシュナの口を通して語られます。
そして、クリシュナは次のように語ります。
「善を護(まも)るため、悪を滅ぼすため、正義を確立するため、私は時代から時代へ出現する。」
参考文献
・バガヴァッド・ギーター / 上村勝彦 / 岩波文庫
・インドの聖典 ムニンドラ・パンダ/(有)アートインターナショナル
・インド思想入門 ヴェーダとウパニシャッド/ 前田専學/春秋社