膨大で難解なヴェーダ聖典について、「インドの聖典」(著・ムニンドラ・パンダ/(有)アートインターナショナル)よりご紹介します。
インド文明存続の鍵となるヴェーダ聖典
世界においてエジプト文明、メソポタミア文明、ローマ帝国など多くの文明が興り、栄え、やがて忘れられていきました。
しかし、インド文明は今もそのままの形で残っています。
これは、ヴェーダ聖典があったからこそだと云われます。
様々な権力者がインドを制圧し、さらに永続的に統治するために、インド文明の破壊を目論見ました。
しかし破壊できたのは、遺跡や記念碑のみで、多くの人の心の中に生きている哲学を破壊することはできませんでした。
人々の精神、思想にヴェーダが生き続けたお蔭で、古(いにしえ)から続くインド文明は、今もそのまま存続し続けています。
紀元前から現在まで引き継がれてきたヴェーダ聖典は、人類の文化遺産とも呼ぶべきものであり、はじめにその特徴についてご紹介します。
難解なヴェーダ聖典
まず、ヴェーダ聖典は、読み物ではなく、詠唱するものであります。
ヴェーダ独特の音声学と韻律学に基づいた詠唱法があり、何千年という年月を経ても、今も昔と変わらぬ形で詠唱されています。
言語が変化しようとも、この詠唱法は変化せず、そのお蔭で言語が変化した今もヴェーダ聖典は残り続けているのです。
「ヴェーダ詠唱の伝統」は、2009年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
またヴェーダ文献を理解するためには、究極の知性が必要とされます。
ただ読むだけでは、それがもたらす利益を十分に得ることはできす、ヴェーダ聖典を理解するためには、それより先に「ヴェーダンガ」と呼ばれるヴェーダの補助学の六部門を学び理解する必要があります。
昔はインドの大学で学ばれていましたが、現代の教育制度には含まれていることはほとんど無いため、ヴェーダを学ぶということは、日本においてだけでなくインドにおいても貴重な機会となっています。
智慧の宝庫、ヴェーダ聖典。それは一体どのようにして書かれたのでしょうか。
ヴェーダの著者
伝承によると、世界の創造神であるブラフマー神の四つの口から四ヴェーダとして語られ、リシといわれる聖仙により聞かれました。そのためヴェーダ聖典は「シュルティ(天啓聖典・聞かれたもの)」と呼ばれます。
つまり、ヴェーダは聖仙がブラフマー神より、直接聞いたものであり、人間によって著作されたものではありません。
この世界の永遠かつ不変の知識であり、この世界のあらゆる知識でヴェーダに納められていないものはない、という点がヴェーダが特別である所以です。
それは哲学のみならず、物理学、化学、医学、薬学、数学、工学、天文学、建築学、軍学、音楽など、この世のあらゆる分野の一切の知識が含まれています。