ハンナ・アーレントの研究によせて マルコムXのスピーチ

ハンナ・アーレントの全体主義の起源2で述べられていた帝国主義。

帝国主義(ていこくしゅぎ、インペリアリズム)とは、一つの国家または民族が自国の利益・領土・勢力の拡大を目指して、政治的・経済的・軍事的に他国や他民族を侵略・支配・抑圧し、強大な国家をつくろうとする運動・思想・政策である。

「この帝国主義にこそ黒人差別は起源し、また黒人差別はアメリカだけでなく、黒人のルーツであるアフリカ諸国の問題であり、アフリカ人の人権の問題である。

さらには世界中で生きている、わたしたちの兄弟姉妹であるすべての黒人の問題であるのだ。」

1964年7月にガーナで行われたスピーチで、マルコムXはアフリカ諸国のリーダーにそう訴えかけていました。

 

 

公民権法が成立するまで

マルコムXは、 1925年5月19日生まれの黒人公民権運動の活動家でした。

公民権法は1964年に成立した、米国内における人種差別を禁ずる法律です。

それまでは、アメリカ南部では白人と黒人の生活は完全に分離されていました。

交通機関や劇場、レストランやトイレなど、公共の場では「白人用」、「黒人用」の看板が見られました。

1950年代から、アメリカ南部の黒人の間に自然発生的に人種差別反対の動きが活発になってきました。

1953年にはルイジアナ州バトンルージュで、55年にはアラバマ州モントゴメリーでいずれも黒人のバス・ボイコット運動が起こりました。

白人専用座席に着席した黒人女性が座席移動を拒否して逮捕されたことから、黒人が抗議のためバス乗車を拒否したものです。

モントゴメリー(南北戦争の時、南部のアメリカ連合国の最初の首都とされたところだった)のバスボイコットでは弱冠26歳のマーティン=ルーサー=キング牧師が指導者となり、非暴力抵抗運動を展開しました。

最高裁は56年、バスの人種隔離は違憲であるとの判断を下しました。

これに対抗する警察による暴力によって負傷者を伴う暴動が南部で発生するなどの事態を受け、1961年大統領となったケネディは黒人に公民権を認め、差別撤廃に乗り出す方針を示しました。

1963年2月、ジョン・F・ケネディ大統領がに強力な新公民権法を制定するよう議会に求めました。

そして1964年7月、公民権法が成立したのです。

スパイク・リー監督

スパイク・リー監督による伝記映画「マルコムX」は、マルコムの死の直前まで行われたインタビューに基づき、アレックス・ヘイリーが執筆した『マルコムX自伝』を映画化したものですが、映画が公開される前から黒人による驚異的な熱狂があったと言います。

尊敬するマルコムXの自伝を映画化するには、かなりのプレッシャーがあったと、スパイク・リー監督はのちに回顧していました。

また、スパイク・リー監督は、ジョージ・フロイド氏の事件を受けて、ショートフィルム『3 Brothers – Radio Raheem, Eric Garner And George Floyd(原題)』を公開しました。

インタビューでは次のように語っています。

「ジョージ・フロイドさんに敬意を払うべきだが、これは新しいことではない。400年前から続いている」

「それにアメリカだけのことでもない。アメリカは人種差別が得意だが、人種差別は世界中にある。人種差別がコロナウイルスより先の、世界的パンデミックだ」

「今までこういうことは何度も見てきたし、そのたびに人々は“どうしてこうなるんだろう?”と同じ質問を繰り返している。

その上にこの国は成り立っているんです。

1619年に、私たちの祖先が母なるアフリカからヴァージニアへ連れてこられて以来、同じことが続いている。

ただし、今ではカメラがありますけどね。

黒人の身体への攻撃は、始まりから現在までずっとあったこと。

アメリカ合衆国の基盤は、土地を奪い、虐殺し、奴隷にすることで生まれたものです。」

 

 

マルコムXに話を戻します。

彼は自伝で次にように述べています。

「昔の私が生きていた浮世の泥沼よりもさらにどん底で生きている黒人、

あるいは昔の私よりももっと無知な黒人、

私が経験した怒りよりももっと激しい怒りをいつも感じている黒人は、アメリカのどこを探してもいないだろうと私は思う。

しかし、まっ暗闇の後にこそ、最大の光が射す。

悲嘆の極みがあって、最大の歓喜も到来する。

奴隷制と刑務所の味を知っている者こそ、自由の醍醐味を味わえるというものだ。」

 

 

アフリカ系アメリカ人の権利と尊厳のために闘う象徴的リーダーであり、1964年7月のガーナで行われた会議にオブザーバーとして招待されたマルコムXは、アフリカとの連帯を求めるスピーチを行いました。

アフリカの統一を目指す汎アフリカ主義に強く感化され、「アフリカ系アメリカ人統一機構」(Organization of Afro-American Unity、OAAU )設立目的の筆頭に「西半球におけるすべてのアフリカ系人の統一と連携」を掲げました。

帰国後、政治組織「アフリカ系アメリカ人統一機構」(OAAU)を設立しました。

マルコムXはこの汎アフリカ主義を基本理念として掲げましたが、40歳という若さで暗殺され、この理念が具現化されることはありませんでした。

 

ジョージ・フロイド事件を受けて、パリに拠点を置く汎アフリカメディア「ジュヌ・アフリック」が56年前のこのスピーチを発掘し、全文を公開しましたので、転載します。

今こそ耳を傾けてほしいメッセージがあります。

(COURRiER JAPONより)

「キング牧師とマルコムX」

2200万のアフリカ系アメリカ人を代表して

 

皆様、

 

私は、「アフリカ系アメリカ人統一機構」から派遣されて参りました。

アフリカサミットの歴史的会議にオブザーバーとして出席するために、そしてアメリカ帝国主義者たちの人種差別によって人権が日常的に犯されている2200万人のアフリカ系アメリカ人の利害を代表するために、です。

 

アフリカ系アメリカ人統一機構は、アフリカ系アメリカ人コミュニティを代表する一部の人々によって創立されました。

この団体は、名称もその精神も、アフリカ統一機構をモデルとしています。

 

アフリカ統一機構は、アフリカの全ての指導者たちに向かって、それぞれの違いを乗り越え、全アフリカ人の共通善のために同じ目標の下で結集するよう呼びかけました。

それとまったく同じように、アフリカ系アメリカ人統一機構は、アメリカ大陸において、アフリカ系アメリカ人の指導者たちに、それぞれの違いを乗り越え、アフリカ系アメリカ人の共通善のために一緒に活動できる合意点を見出すよう呼びかけたのでした。

 

現在アフリカの子孫2200万人が、アメリカ大陸で暮らしています。

自ら選択したわけではなく、ただ残酷な歴史の偶然によるものです。

ですからアフリカの問題は私たちの問題であること、そして私たちの問題はアフリカの問題であると固く信じております。

 

また、あなたがたはアフリカ独立国家の長として、世界中のアフリカ人たちの、たとえアフリカ大陸に残っていようと、海を越えて離散していようと全てのアフリカ人たちの牧者であるとも信じています。

 

この会議に出席している一部のアフリカ指導者は、アフリカ系アメリカ人についての懸念すべき問題はもう十分向き合ったとほのめかしました。

 

失礼ながら申し上げますが、こうした立場には尊重を示すとしても、私はあなたがた全員に思い出していただかねばなりません。

善き牧者とは、近くにいる安全な99頭の羊を放り出してでも、迷子となり帝国主義という狼の手に陥ってしまった1頭の羊を助けに行くでしょう、と。

 

アメリカにいる私たちは、はるか昔にはぐれてしまったあなたがたの兄弟姉妹です。

私がここに参ったのは、とにかく「私たちの問題は、あなたがたの問題なのだ」ということを思い出してもらうためなのです。

現在のアフリカ系アメリカ人は自分のルーツに目覚めながらも、自分たちを拒む異国の地に居ります。

そして放蕩息子のごとく、私たちは諸兄に助けを求めているのです。

こうした懇願が皆様に聞き入れられることを祈っています。

 

私たちはアフリカ大陸にいた頃に、無理やり誘拐され鎖につながれました。

それから300年以上経った現在、私たちは新大陸アメリカで、きわめて非人間的な形での拷問を身体的にも心理的にも受けているのです。

 

この10年間、世界中が目にしてきました。

黒人の男性や女性や子どもたちが襲撃され、獰猛な警察犬に噛まれ、警官の棍棒によって乱暴に殴られ、衣服や四肢の肉がもげるような高圧放水を浴びせられ、ゴミのように下水道に投げ捨てられる様を。

 

こうした残忍な行為を、アメリカ政府当局が警察を通じておこなってきたのです。

その理由といえば、アメリカで暮らす他の人々には与えられている承認と尊重をアフリカ系アメリカ人が要求したから、というだけです。

 

アメリカ政府はあなたがたの兄弟姉妹である2200万人のアフリカ系アメリカ人の生命も財産も守ることはできないし、守るつもりもないのです。

私たちはアメリカの人種差別主義者たちの意のままになっており無防備です。

黒い皮膚とアフリカのルーツを持つという事実だけで、私たちは好き放題に殺されてしまうのです。

 

先週ジョージア州で、武器を持たない一人のアフリカ系アメリカ人の教育者が冷酷にも殺されました。

その数日前には、ミシシッピで公民権運動に参加した3人の労働者が不可解な形で行方不明となりました。

ただ単に地元市民に投票と政治的権利の重要性を呼び掛けたというだけで、彼らもおそらく殺されたのでしょう。

 

私たちの問題はあなたがたの問題です。人種差別主義の狼たちの巣窟となっているアメリカで、常に命を落としたり袋叩きにあったりする恐怖を抱えながら私たちは300年以上生きてきました。

 

最近、3人のケニア出身の大学生が、アフリカ系アメリカ人と間違えられてニューヨーク警察に暴行されました。

それとほぼ同じ時期に、ウガンダの2人の外交官も同じくニューヨーク警察に殴打されました。警官は彼らをアフリカ系アメリカ人だと思ったのでした。

 

単にアメリカを訪問しただけのアフリカ人ですらこんな風に扱われるのです。だとしたら、この地で暮らすあなたがたの兄弟姉妹が耐え忍んできた数々の苦悩を想像してみてください。

 

人種差別は人権の問題です

 

私たちの問題はあなたがたの問題です。アフリカ人がアフリカ大陸においてどれほど独立を勝ち取ったとしても、あなたがたがアメリカを訪れるとなれば、常に自国の伝統衣装を身にまとっていないと私たちアフリカ系アメリカ人の一人だと思われるかもしれませんし、私たちが日常的に受けている傷害事件に巻き込まれてしまうかもしれないのです。

 

あなたがたの問題は、私たちの問題が解決しないかぎり決して完全には解決しないでしょう。

私たちが尊重されなければ、あなたがたも完全な尊重を受けることは決してないでしょう。

私たちが自由な人間存在として認められ、そのように扱われないかぎり、あなたがたも決して自由な人間存在として認められることはないでしょう

 

私たちの問題はあなたがたの問題です。

これは黒人の問題でも、アメリカだけの問題でもありません。

世界的な問題であり、人類全体を巻き込む問題です。

アメリカ国内での黒人の公民権の問題ではなく、人権の問題なのです。

 

ヨーロッパの植民地主義から解放されたアフリカの我が兄弟たちが、ふたたび打ち負かされ支配されてしまうことのないように祈っております。

 

アメリカの状況は、南アフリカのアパルトヘイトよりも悪質です。

単に人種差別的だからではありません。

アメリカは狡猾で偽善的でもあるのです。

南アフリカの場合、人種隔離を推奨し、かつ実行しています。

少なくとも南アフリカは自らの推奨することを実際に行っているのです。

アメリカはというと、統合を推奨しながら、人種隔離を実行しています。

一方を推奨しておきながら、詐欺的な仕方でその反対のことをおこなっているのです。

 

南アフリカは獰猛な狼のようなものです。

黒人の人間性に対し、公然と敵意を見せています。

ところがアメリカは狐のごとくずる賢くて、表面上は友好的に微笑みながら、狼よりもずっと悪質で命を脅かす存在なのです。

 

この狼と狐は、どちらも人類の敵です。

どちらも狩猟する側であり、その犠牲となる者を屈服させ、深い傷を負わせます。

どちらも目標は同じ…。違いはただその方法だけでしかありません。

 

南アフリカがこちら側、つまりアフリカ大陸においてアフリカ人の人権を侵害している点で非難されるべきだとすれば、アメリカはアメリカ合衆国で暮らす2200万人のアフリカ系アメリカ人に対してそれ以上の深刻な人権侵害を犯しているという点で非難されるべきです。

南アフリカの人種差別が国内問題ではないとすれば、アメリカの人種差別もまた単なる国内問題ではないはずです。

 

私たちには正当防衛の権利があります

 

私たちはアフリカ独立諸国に、アフリカ系アメリカ人問題を国際連合に提起するための支援を求めます。

というのもアフリカ系アメリカ人の生命と財産を守ることはアメリカ政府には道徳的に無理だからであり、またアフリカ系アメリカ人の境遇が悪化することは明らかに世界平和にとっても脅威になるからです。

 

欲求不満と絶望のせいで、若い世代のアフリカ系アメリカ人は引き返せない地点にまで来ています。

もはや忍耐を勧め、殴られた時に「反対側の頬を差し出す」(註:聖書のイエスの言葉「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」をふまえている)ような時期ではありません。

 

私たちはあらゆる必要な手段を講じて正当防衛をおこなう権利を主張していますし、苦しい境遇のなかで人種差別的な抑圧者たちに復讐する権利は持ちつづけています。

たとえその復讐があまりにも過激なものになったとしても。

 

私たちははっきりと感じています。

将来、私たちが目には目を、歯には歯をと、暴力によって暴力に対峙することになれば、アメリカで人種間闘争が起こるかもしれないということを。

そうなれば、いとも簡単に血みどろの壮絶な世界戦争へと突入しかねないでしょう。

 

だからこそ世界の平和と安全のために、私たちはアフリカ独立諸国のリーダーの方々に懇願しているのです。

国際連合の人権委員会を後ろ盾に、アフリカ系アメリカ人の現状について、ただちに調査を行うよう提案してください、と。

 

このアフリカサミットの場で、親愛なる我が兄弟たちに最後の一言を添えておきます。

「奴隷以上に主人のことをよく知る者はいない」。

アメリカにおいて、私たちは300年以上前から奴隷です。

自分のことを「アンクル・サム」と呼ばせるこのアメリカのことを、私たちは熟知しています。

 

ですから、私たちの警告をあなたがたは念頭に置いておかなければなりません。

ヨーロッパの植民地主義を脱したにもかかわらず、偽りの友情をみせるアメリカのドルのせいで、さらなる奴隷になってしまうことのないように。

 

アッラーが、あなたがた全員の健康と知恵を祝福されんことを。

 

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