ハンナ・アーレントの研究によせて キング牧師とイエス・キリスト

キリストの声を聞いたキング牧師

キング牧師が運動の指導者として日に日に有名になることを快く思わない活動家もいました。

さらに白人による嫌がらせ、脅迫、活動資金を着服しているというデマ、不当な逮捕などで、20代の若かりし頃のキング牧師は精神的に参っていました。

ある晩真夜中に悪質な脅迫電話がかかり、ついに眠れなくなります。

弱気になったキング牧師が神に祈ると、キリストの声が聞こえてきたのです。

 

 

わたしは耐えられないところまできた。

わたしは弱かった。その時、何かが私に語りかけた。

「お前は父親に電話してはならない。母親に電話してもならない。

父親がかつて話してくれた人がもつ何かに頼るほかない。

つまり、行き詰ったときに道をつくってくれる力に頼るのだ。」

そのとき、わたしが知ったのは、宗教がわたしにとって現実的なものでなければならないこと、そしてわたし自身が神を知らなければならない、ということだった。

そこで、わたしは祈りに祈った。

声を大にして祈った。

「主よ、わたしは正しいことをしようとしてここにいます。

自分は正しいと思っています。

掲げている大義も正しいと思っています。しかし主よ、本当のことをいうと、わたしはいま、くじけそうなのです。

つまずきそうになっています。

勇気を失いそうです。人々にこんな姿を見せたくありません。」

そのとき、わたしは内なる声を聞いたようだ。

「マーティン・ルーサーよ、正義のために立ち上がれ、真実のために立ち上がれ。

見よ。わたしはお前のそばにいるだろう。世の終わりまで。」

戦い続けろというイエスの声を聞いたのだ。

イエスはけっしてわたしを一人にしないと約束くださった。

 

 

この経験で、キング牧師は新たに勇気と力を与えられました。

神を身近に感じたのは、これが初めての経験だったと後に回顧しています。

 

神と共に生きるキング牧師

キング牧師は、バスボイコット運動で指導者として不動の地位を確立しましたが、その直後に自宅に爆弾が投げられる事件が起こります。

爆破のニュースを聞いて1000人以上の群衆が集まっているところにキング牧師が帰宅し、家族の無事を確認し、武器を持って怒りに震えている群衆に、非暴力を説きます。

自分の家族は殺されたかもしれない仕打ちを受けた直後のことです。

 

 

「仕返しに暴力を使っても問題の解決にはならない。

白人の兄弟を愛さなければならない。わたしたちが白人を愛していることを、かれらに知らせなければならない。

汝の敵を愛せよ、汝を呪う者を祝福せよ、汝を虐げる者のために祈れ、がわたしたちの生きる道だ。

憎しみに愛をもって報いなければならない。」

 

 

と訴えたのです。

集まった群衆がキング牧師の言動に神の姿を感じた瞬間でした。

またこの言葉が報道や口コミで多くの人々に伝わり、全米から注目される活動家になる契機となりました。

 

判決まで1年かかったモンゴメリ・バス・ボイコット事件で、「市バスの人種分離は違憲である」という判決が下り、バスでも人種統合が実現します。

これはキング牧師の初勝利でした。

キング牧師の運動の哲学は、バスに乗らないことという受動的な抵抗でした。

法を破る、従わないという行動ではありません。

 

 

奇跡を起こした非暴力デモ

 

奴隷解放宣言から100周年という記念の年にあたる1963年、黒人差別がいまだに厳しいアラバマ州のバーニングハムで大掛かりな運動が組織されます。

白人が完全に支配している権力に、市民的不服従と非暴力直接行動で挑戦するというものです。

バーミングハムのデモには子供たちも参加し、当局はこれを高圧ホースや警察犬という残酷な手段でけちらし、その姿をマスコミは大々的に報道しました。

ケネディ大統領もこの報道に対して、「気分が悪くなった。」といいます。

これらの報道は、事実を知った人々の良心を呼び覚まします。

キング牧師が、不正な法に従わず、暴力的な方法で危害を加えられても非暴力でじっと耐えることで、加害者とその暴力行為を見ている人たちの良心を呼び覚ましたのです。

実際に、警察官や消防士が指揮官の命令に反して、デモ隊に道をあけたという奇跡が起きたのでした。

世論の圧力や大統領の介入もあり、人種分離は改善の方向に向かいます。

(以上、「キング牧師とマルコムX」著 上坂 昇 講談社現代新書 から引用しています。)

 

キング牧師の名演説の中から、1954年2月28日にミシガン州のバプテスト教会でなされたものを一部抜粋してご紹介します。

 

 

われわれは多くの尊い価値を後ろに置き去りにしている。

われわれは多くの大切な価値を見失っている。

だから、もし前進しようとするならば、もしこの世界を住むためのよりよき世界にしようとするならば、われわれは引き返さなければならない。

われわれは置き去りにしてきたこれらの大切な価値を、再発見しなければならない。

まず第一はこういうことである。

すべての現実は道徳的基盤にかかわっているということである。

言い換えれば、ここは道徳的宇宙であり、宇宙の道徳法は物理的法則と全く同じように不変のものであるいうことである。

だが、どうやらわれわれはそのことを信じていないようである。

宇宙の物理的法則については、われわれは決して疑っていない。

だからわれわれは面白がって飛行機から飛び降りたり、高いビルから飛び降りたりしない。

なぜなら無意識のうちにわれわれは究極的に万有引力の法則があることを知っており、もしそれに従わなければ、その結果を引き受けることになることを、知っているからである。

だがどうだろうか。

宇宙には物理的法則と同じような不変の道徳的法則があることを、はたしてわれわれは知っているであろうか。

私はどうも、われわれがこの宇宙には愛の法則があるということを、本当に信じているとは思えない。

そしてそれに従わなければ、その結果を引き受けることになるということを、本当に信じているとは思えない。

すなわちここは道徳的宇宙であるという原理から、われわれが迷い出ていると思われる。

この宇宙には「あなたの蒔く物を、あなたは刈り取る」と述べている聖書記者の言葉を正当化する何ものかがある。

この宇宙は道徳的宇宙である。

それは道徳的基盤の上に立っているのだ。

 

(1954年2月28日 ミシガン州デトロイト市、第二バプテスト教会において行われた説教より一部抜粋)

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