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脂肪をより効率的に燃焼させるには
筑波大学医学医療系の矢作直也准教授、東京大学大学院医学系の泉田欣彦助教らによる研究の詳細が2013年8月13日「Nature Communications」に掲載されました。
研究テーマは、“原因遺伝子の発生工学的解析によるメタボリックシンドロームの病態メカニズムの解明”。
(筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループは、2008~2011年に東京大学大学院医学系研究科に設置された寄附講座「分子エネルギー代謝学講座」を母体に、2011年より筑波大学と東京大学にまたがる研究グループとして、研究活動を続けています。)
矢作直也准教授らの研究チームは、肝臓内にグリコーゲン量の減少を感知する仕組みがあり、その働きによって、絶食時のエネルギー源を、肝臓のグリコーゲンから脂肪細胞の中性脂肪に切り替えていることを発見しました。肝臓内グリコーゲン量と脂肪燃焼との関係がはじめて解明され、脂肪をより効率的に燃焼させるためには、肝臓内グリコーゲン量を減らすことが有効であることがあきらかになりました。
分子栄養メカニズムの解明
また、令和元年11月4日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)(11月4日付)に国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の教授 木村郁夫氏らの研究結果が掲載されました。
低炭水化物食や断続的断食がもたらす体脂肪重量の効率的な減少効果に、飢餓のようなエネルギー不足時にグルコースの代替エネルギー源として産生されるケトン体の一種であるアセト酢酸とその受容体、そして腸内環境の変化が密接に関わっていることを明らかにしました。ケトン体とその受容体を介した分子栄養メカニズムの解明は、栄養管理による先制医療や予防医学、更にはケトン体受容体を標的とした代謝性疾患治療薬の開発に向けて、今後、本成果の応用が期待されます。本研究により、飢餓(絶食)などのグルコースを正常に利用できないケトジェニックな環境や、断続的断食や低炭水化物食負荷において、腸内環境の変化や、ケトン体の一種であるアセト酢酸がGPR43を介して脂質代謝を制御することで、宿主のエネルギー恒常性に寄与することを明らかにしました。
これらの知見は、栄養シグナル分子としてのケトン体の生体調節機能における中心的メカニズムを示唆することに繋がります。
したがって、本研究の成果は、食事介入や栄養管理を介した先制医療や予防医学、さらにはケトン体受容体を標的とした代謝性疾患治療薬の開発に寄与する可能性が大いに期待されます。
絶食中のエネルギー源
米国国立生物工学情報センター(NCBI)の『Fasting: Molecular Mechanisms and Clinical Applications / Valter D. Longo and Mark P. Mattson』の内容に戻ります。
私たちが絶食すると、体は体外からのエネルギーを取り込めなくなります。
すると、すでに体内にある物質を使ってエネルギーを作り出すしかありません。
体内のエネルギー源には大きく分けて3つあります。
グルコース(糖)、筋肉、脂肪です。
体外からエネルギーが取り込めない時、優先的にグルコースを消費します。
グルコースは血液中を巡っているほか、肝臓の中に蓄えられています。
しかし、12時間〜24時間ほど断食をしていると、血液中のグルコースは20%ほど低下し、肝臓にあるグルコースも枯渇し始めます。
この”グルコース飢饉”とともに起こるのが、「インスリン」や、インスリンに似た構造を持つ「インスリン様成長因子1(IGF-1)」の量の減少です。
インスリンは血液中のグルコース濃度が上がると分泌され、肝臓にグルコースを蓄えるように働きかけます。
断食中にはインスリンの出番がないため、その量は減ります。また、インスリンの減少に伴って、IGF-1も減少します。
絶食による副産物①
実はこのインスリンとIGF-1は、細胞の老化を抑えるタンパク質が働かないようにして、老化を促進する側面もあることが知られています。
食べ物をとらなくなり、インスリンとIGF-1が減少すると、老化を抑えるタンパク質が働くようになり、細胞の老化を遅らせることができるのです。
絶食中の副産物②
栄養源を外から得られなくなると、体は様々な方法でそれを補おうとします。
その1つが「オートファジー」と呼ばれるものです。
オートファジーは、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生の研究テーマでした。
オートファジーとは、細胞の中にすでにあるタンパク質を分解する現象です。
生物が生きていくためには、さまざまなタンパク質のはたらきが欠かせません。
が、断食によってタンパク質をつくる材料(アミノ酸)を得られない時、必要なタンパク質を十分につくることができなくなります。
そこで、すでにある優先順位の低いタンパク質をアミノ酸に分解して、そのアミノ酸をつかって別の優先順位の高いタンパク質をつくります。
これは飢餓状態に陥った体の一時的な策ですが、オートファジーによって細胞の不要なタンパク質が除去される場合があります。
アルツハイマー病は、「アミロイドβペプチド(Aβ)」の沈着が引き金となって、タウタンパク質が凝集する神経原線維変化(タウ病理)の形成、神経細胞死に至るという「アミロイドカスケード仮説」が支持されています。
つまり不要なタンパク質の蓄積は、老化や疾患を引き起こすことがあるのです。
絶食によって細胞内の環境が整備されることは、老化の予防につながりうるのです。