常陸国の神々・東国三社参り・息栖神社

息栖神社・時を超え、神と自然が織りなす神秘の社
潮来市の水郷情緒を後に、東国三社参りの旅路は続く。古の信仰が息づく場所、息栖神社へと足を運んだ。その地に足を踏み入れた瞬間から、静謐な空気と神聖な雰囲気に包まれ、心洗われるような感覚を覚えた。
息栖神社(いきすじんじゃ)
所在地・茨城県神栖市息栖2882
ご祭神
久那戸神(くなどのかみ): 道祖神とも呼ばれ、村の境界を守り、悪霊の侵入を防ぐ神。旅の安全、交通安全、子孫繁栄にご利益があるとされる。
天乃鳥船(あまのとりふね): 神々が天上を往来する際に用いたとされる船の神格化。交通安全、旅行安全、開運招福にご利益があるとされる。
住吉三神(すみよしさんしん): 航海安全、漁業繁栄、開運招福にご利益があるとされる。上筒男命(うわつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、底筒男命(そこつつのおのみこと)の三柱の神。

神社の入り口に立つのは、二の鳥居。そこから振り返ると、少し離れた場所に一の鳥居が静かに佇んでいる。そして、その鳥居の根元には、息栖神社のご神体とも言える忍潮井が鎮座している。鳥居をくぐる度に、俗世から聖域へと足を踏み入れる感覚が増していく。
一之鳥居・鹿島神宮の南の一之鳥居を兼ねて

特筆すべきは、この一之鳥居が、鹿島神宮の南の一之鳥居を兼ねているという点だ。鹿島神宮は、武道の神様として知られる武甕槌大神を祀り、国土鎮護の要として古くから崇敬されてきた。その鹿島神宮と息栖神社が、鳥居を通して繋がっているという事実は、両社の深い関係性を示唆している。この事を知ると、鳥居を仰ぎ見る視線も、自ずと敬虔なものへと変わっていく。
日本三霊泉の一つ、忍潮井・奇跡の湧き水が語る物語
忍潮井は、日本三霊泉の一つに数えられる名水として知られている。かつて神社の前が”香取の海”と呼ばれていた時代から、海水ではなく、清らかな真水が湧き出ていたという。この神秘的な光景こそが、忍潮井という名前の由来となっている。「真水が海水を忍びおしのけて湧き出ている」という、自然界の驚異を目の当たりにすると、言葉を失うほどの感動を覚える。

忍潮井は、右手に男瓶(おがめ)、左手に女甕(めがめ)と呼ばれる二つの井戸を持つ。井戸の奥にある瓶が、澄み切って見えると幸運が訪れると言い伝えられている。覗き込むと、水底に静かに佇む瓶が見えた。その瞬間、心の奥底から喜びが湧き上がり、希望に満ちた未来を予感させてくれた。

この忍潮井の水は、古くから人々の生活を支え、信仰の対象として大切にされてきた。その歴史を思うと、今こうして同じ水に触れている事が、まるで時を超えた旅をしているかのような不思議な感覚を覚える。

また、忍潮井は利根川の支流沿いに位置しており、少し歩くと川に出ることができる。
利根川・龍神の息吹を感じる聖なる流れ
利根川は、古来より龍神が住むと伝えられ、大地の気が雄大に流れる川として崇められてきた。川面に目を向けると、太陽の光を浴びてキラキラと輝く水面が目に飛び込んでくる。その光景は、まさに龍神の鱗のようにも見え、神秘的な雰囲気を醸し出している。

幸運の気が川から神社に向かって流れ込み、拝殿には幸運の気が充満しているという。深呼吸をすると、清々しい空気と共に、大地のエネルギーが体内に流れ込んでくるような感覚を覚える。
また、川端にたたずむと、穢れが風と共に去っていくのが感じられるという。実際に、川風に吹かれていると、心身ともに浄化されていくような清々しい感覚を覚えた。日々の喧騒を忘れ、ただ静かに川の流れを見つめていると、心が穏やかになり、深い癒しを感じることができた。
参拝の際には、ぜひ忍潮井と利根川にも足を運んで、自然のエネルギーを肌で感じていただきたい。

息栖神社に戻り、二の鳥居をくぐり、参道を歩みを進める。鹿島神宮や香取神宮と比べると、境内は静かでこじんまりとしているが、どこか懐かしいような気持ちになり、心が落ち着く。優しい包容力に包まれているような、温かい感覚を覚える。
御神門

鮮やかな朱色の御神門は、格式高い雰囲気を醸し出している。この門をくぐると、さらに神聖な空間へと足を踏み入れることになる。
力石・若者たちの力比べの証
祭礼の際に若者たちが力比べをしたと伝えられる「力石」。その大きさと重さに圧倒される。昔の人々の力強さを感じると共に、祭りの賑わいを想像し、心が躍る。
神社の創建は、応神天皇の時代(西暦2~300年頃)と言われている。悠久の歴史を感じさせる由緒ある神社だ。

創建された当初は、現在よりも海に近い場所に鎮座されていた。その場所は、日川(にっかわ)地区と呼ばれている。
当時は、於岐都説神社(おきつせつじんじゃ)という社名で記載されていたが、大同二年(807年)に現在の神栖市に遷宮され、息栖神社となった。
みや桜

春には美しい花を咲かせるみや桜。訪れた際には、残念ながら花は終わっていたが、緑豊かな葉が力強く生い茂り、境内に彩りを添えていた。

境内には、松尾芭蕉の句碑がある。
御衣黄と力石と句碑・芭蕉の句が語る神の力
句碑には、
”此里は気吹戸主の風寒之(このさとは いぶきどぬしの かぜさむし)”
と刻まれている。

句の意味は、
いざなぎの尊が、黄泉の国(死の国)から戻ったとき、筑紫日向の橋の小門(おど)で、身体を洗い、きたないものと汚れたもの(罪や穢れ)を、すっかりそそぎ落し、浄め流した。その流れの中から生まれたのが気吹戸主(息栖神社祭神)で、清浄化・生々発展・蘇生回復の神である。
このいわれにあやかって、この神域に身をひたしていると、身も心も洗い浄められて、何の迷いも曇りも、わだかまりもなくなり、体の中を風が吹き抜けるほど透き通って、寒くなるくらいである。
芭蕉の句を読むと、この神社の持つ清浄な力、そして、気吹戸主の神徳を改めて感じることができる。
拝殿・祈りの空間

拝殿に立ち、静かに手を合わせる。日々の感謝を伝え、平和な日々を祈願する。心が落ち着き、穏やかな気持ちになる。
拝殿の奥には、樹齢1000年のご神木がそびえ立っている。
ご神木・生命の息吹を感じる巨木
その圧倒的な存在感に、言葉を失う。長い年月を生きてきたご神木は、この土地の歴史を見守ってきたのだろう。幹に触れると、温かいエネルギーが伝わってくる。

息栖神社は、龍神にまつわる神社である。境内全体に龍神のエネルギーが満ち溢れている。
東国三社参りの一つとして、ぜひ息栖神社を訪れて、神聖な空気に触れ、心身ともに癒されていただきたい。
この地を訪れたことで、私は改めて、自然と神々への畏敬の念を抱き、感謝の気持ちで満たされた。息栖神社は、単なる観光地ではなく、人々の心を癒し、希望を与えてくれる、特別な場所だと感じた。